2025年12月、「医療法等の一部を改正する法律」が成立し、2030年末までの電子カルテ普及率約100%が「国の責務」として法律に明記されました。しかし、現場では費用負担の重さが限界を超えつつあります。2026年3月29日、日本医師会の長島公之常任理事は第161回臨代議員会において「推進費用・維持管理費は全額国が負担すべき」と踏み込んだ要求を行いました。この記事では、法的根拠・現場コストの実態・クラウド転換の方向性・そして真の医療DX実現に必要な「三位一体の設計」を詳しく解説します。
三つの課題が絡み合う「分岐点」
今、医療DXは大きな分岐点を迎えています。単なるデジタル化の推進論ではなく、「誰が、何のために、どう費用を負担するか」という根本的な構造問題が浮上しています。
日本医師会の主張:「推進費用は国が全額負担すべき」
日本医師会常任理事の長島公之氏は、2026年3月29日に開催された第161回臨代議員会において、電子カルテ普及推進にかかるセキュリティ対策・維持管理費用について明確な立場を表明しました。
「電子カルテ普及100%は国の責務。推進に伴うセキュリティ対策や維持管理費は、本来国が全額負担すべきである」
今回の発言のポイントは、単なる補助金の拡充要求ではなく、「全額負担」という踏み込んだ要求である点です。日本医師会が求めているのは「単なる導入補助」からの脱却です。
主張の根拠:法律が明記した「国の責務」
この要求の背景には明確な法的根拠があります。まず法律の成立から現場の主張に至るまでの流れを整理します。
2030年末までの電子カルテ普及率約100%は、単なる努力目標ではなく、国が法律上「実現しなければならない」義務として負っているものです。日本医師会はこの「国の責務」という文言を根拠に、費用負担の在り方を正面から問い直しています。
見えていないコスト:「水面下の氷山」
これまでの補助金制度は「導入費用」を主な対象としてきました。しかし、医療機関の経営を本当に圧迫しているのは導入後に毎月・毎年発生するランニングコストです。このコスト構造を「氷山」に例えると、実態がよくわかります。
- サーバー購入費
- ソフトウェア導入費
- 初期セットアップ費用
- 月額SaaS利用料・ライセンス費
- 高度なサイバーセキュリティ対策・監視費用
- システム保守・定期アップデート費用
- ネットワーク回線維持費
セキュリティの切り札:クラウドネイティブへの転換
長島氏はまた、医療情報システムの適切なクラウド化はセキュリティ上極めて有用であると述べ、国による支援を要望しています。厚生労働省の工程表でも、オンプレミス型からクラウドネイティブを基本とする方式への移行が明記されています。
両者の違いを比較すると、クラウド移行のメリットと課題が明確になります。
| 評価項目 | 従来のオンプレミス型 | SaaS型クラウド(推奨) |
|---|---|---|
| 初期導入コスト | 高(専用サーバー・機器構築が必要) | 低(インターネット回線と端末のみで開始可能) |
| ランニングコスト | 変動・予測困難(故障対応、買い替え) | 定額制(月額/年額の利用料に保守費が含まれる) |
| セキュリティ負担 | 医療機関(自院で最新の対策を維持する重圧) | ベンダー・国(専門家による一括管理と常時監視) |
| カスタマイズ性 | 高(独自の診療スタイルに完全適応可能) | 標準化(共通仕様への業務フロー適応が必要) |
| 法改正・アップデート | 手動対応・都度費用発生 | 自動・一斉アップデート(追加費用なし) |
SaaS型マルチテナント方式では、単一の堅牢なシステムを複数医療機関が共同利用することで、コストを抑えつつ国家レベルの高いセキュリティ水準を確保できます。個々の医療機関が自力でサイバー攻撃に対抗するオンプレミス型は、コストと技術の両面で限界を迎えています。
現状と課題:普及はまだ道半ば
厚生労働省の医療施設調査によると、電子カルテの普及状況には医療機関の種別により大きな差があります。
クリニックの普及を阻む「物理的・環境的ハードル」も無視できません。
パラダイムシフト:医療DXの「公共インフラ」化
日本医師会の主張の根底には、電子カルテに対する認識の大転換——「パラダイムシフト」——があります。
導入メリットは自院の業務効率化。費用負担は「民間(病院・クリニック)任せ」が当然とされてきた。
医療の質向上、安全性強化、国家的なデータ連携の基盤。水道や道路と同じく、国主導での整備・負担が不可欠な領域へ。
「誰のためのデジタル化か?」——この問いに正面から向き合うことが、2030年に向けた医療DX政策の本質的課題です。
真の医療DX実現に向けた「三位一体の設計」
費用負担の問題が解決されたとしても、それだけでは十分ではありません。2030年に電子カルテ普及100%を「形式ではなく実質的に」実現するためには、以下の三位一体が必要です。
株式会社F Labelとして
医療DX・電子カルテ導入についてご相談ください
制度・補助金の活用から、導入計画の策定・ベンダー選定まで、
F Labelが医療機関の現場に寄り添って支援します。
参照・引用
- m3.com「『電子カルテ普及100%は国の責務、推進負担も国で』、長島常任理事」(2026年4月1日、橋本佳子)
https://www.m3.com/news/open/iryoishin/1328508 - 厚生労働省「電子カルテの普及について」第28回 健康・医療・介護情報利活用検討会 資料1(令和8年3月12日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001657580.pdf - 厚生労働省「電子処方箋・電子カルテの目標設定等について」(令和7年7月1日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001511375.pdf - ウィーメックス株式会社 メディコム「電子カルテは本当に義務化される?」
https://www.phchd.com/jp/medicom/park/tech/ehr-dx - 株式会社F Label「医療DXの分岐点:電子カルテ100%普及への「国の責務」と課題」(2026年4月)
免責事項
本記事は、上記参照先の公開情報をもとに株式会社F Labelが作成したものです。記載内容は執筆時点(2026年4月1日)の情報に基づいており、その後の法改正・制度変更・政策変更等により内容が変わる場合があります。本記事は情報提供を目的としたものであり、法的・医療的・財務的アドバイスを提供するものではありません。個別の判断については、所管官庁や専門家にご確認ください。
私たちF Labelは、医療・ヘルスケア分野のデジタル化支援に深く関わる立場から、今回の日本医師会の主張には重要な問いが込められていると受け止めています。
「誰のためのデジタル化か」——これが本質的な問いです。電子カルテの普及が国民の医療の質向上と安全性強化につながる公共インフラであるなら、その費用負担の在り方を「民間任せ」にしてよいのかという議論は、至極まっとうです。
一方で、費用負担の問題が解決されたとしても、「導入支援・人材育成・運用サポートまで一体的に設計されなければ、システムの導入が形式的なものに終わりかねない」という懸念があります。特に小規模クリニックでは、電子カルテが「使われない高い買い物」になるリスクを、現場で繰り返し目にしてきました。
2030年まで4年を切った今、私たちはこの三位一体の支援設計を、医療機関の経営者と一緒に考え、具体的なアクションプランに落とし込む支援を行っています。制度の動向を注視しながら、現場に最適な導入計画をともに策定しませんか。