私たちが日々使う電気は、発電された電力量だけで成り立っているわけではありません。真夏や真冬の需要ピーク、設備トラブル、再生可能エネルギーの出力変動が起きても停電を防ぐためには、「必要な時に供給できる力」そのものをあらかじめ確保しておく必要があります。この供給力を取引する仕組みが「容量市場」です。この容量市場が、いま電気料金を考えるうえで無視できない存在になっています。
電力広域的運営推進機関が2025年1月に公表した2028年度受け渡し分のオークション結果では、約定総額は1兆8,506億円に達しました。北海道・東北・東京・中部・九州の5エリアが指標価格以上となり、安定供給を維持するための費用が制度上も明確に跳ね上がりました。
容量市場とは何か:「将来の停電リスクへの保険料」
容量市場をわかりやすく言えば、「将来の停電リスクに備えるための保険料」に近い仕組みです。通常の卸電力市場が、実際に使われる電力量を取引するのに対し、容量市場は将来に向けて確保しておく発電能力や供給力を評価します。
発電所が常にフル稼働していなくても、需給逼迫時に供給できる状態を維持していること自体に価値がある——という考え方で設計されています。
なぜ約定総額が膨らんだのか
背景には、発電所を維持するコスト上昇と供給力の厳しさがあります。複数エリアで指標価格以上となったことに加え、不足エリアが拡大したことが示されています。さらに、昨年度までの約定価格の上昇傾向も踏まえると、今後も同様の事象が続く可能性があるとされています。
(北海道・東北・東京・中部・九州)
(長期脱炭素電源オークション2024年度)
(アンモニア混焼改修は100%)
再エネが増えても火力は必要という矛盾
ここで重要なのは、再生可能エネルギーが増えるほど、火力発電の価値がすぐに消えるわけではないという点です。太陽光や風力は脱炭素の主役ですが、天候によって出力が変わります。そのため、需給がひっ迫したときに即応できるバックアップ電源が必要です。
- 脱炭素の主役として導入拡大
- 天候により出力が変動する
- 需給ひっ迫時の即応が難しい
- 老朽化・維持コスト上昇
- 再エネの変動を補うために必要
- 移行期は並行して維持が必要
再エネ導入拡大と火力維持は、一見矛盾するようでいて、移行期の日本では同時に進まざるを得ないのが実情です。蓄電池は再エネの変動吸収や調整力として期待が大きいものの、足元ではすべての供給力問題を一気に解決できる段階ではありません。結果として、短中期では火力を維持するコストを負担しながら、中長期では蓄電池や脱炭素電源への投資も進めるという、二重の負担構造になりやすい局面にあります。
容量拠出金のカギは「ピーク時電力kW」
容量拠出金の算定でカギになるのはピーク時電力(kW)です。広域機関の説明資料では、容量拠出金の算定に使用するピーク時電力kW実績は、最大需要が発生した日時の数値とされています。
具体的には、夏季(4月〜9月)のピーク時電力kW実績が夏季分の容量拠出金算定の基礎となり、冬季(10月〜翌3月)も同様の仕組みになっています。つまり、ピークをどう下げるかが電力コスト管理の本丸になっているのです。
企業が打てる手:デマンドレスポンス(DR)
ここで注目したいのがデマンドレスポンス(DR)です。資源エネルギー庁は、DRを需要を減らす「下げDR」と、需要を増やす「上げDR」に分けており、ピーク時間帯の需要量を抑えることで容量拠出金の削減への貢献が期待されると明記されています。DRは単なる省エネ活動ではなく、容量市場時代の電力コスト対策としての意味を持っています。
需要家コストへの転嫁は今後さらに表面化する
最近は、容量市場の費用を需要家へどう転嫁するかも大きな論点になっています。2026年3月の総合資源エネルギー調査会資料では、容量市場に関する費用の需要家への転嫁円滑化を図るための措置を講じるべきとの意見が示されています。
これは、容量市場のコストが発電事業者や小売事業者だけの問題ではなく、最終的には需要家の価格負担として表れやすいことを示唆しています。企業経営の視点では、今後の電気料金改定や料金メニューの変化を受け身で待つのではなく、制度の動向を踏まえて調達と使用の両面から備える必要があります。
まとめ:電気代対策は「燃料費」だけで見るな
容量市場は難しく見えますが、本質はシンプルです。日本社会は今、「停電しないこと」に対して、以前よりはっきりしたコストを払う時代に入りました。2028年度向けメインオークションで示された1兆8,506億円は、その現実を象徴する数字です。しかもこの負担は、電力会社の内部で完結するものではなく、電気を使う企業や家庭のコストに影響します。
電気代の上昇を「仕方ない」で終わらせないためには、制度を知り、ピークを知り、自社の使い方を見直すことが、最も現実的な第一歩になります。
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参考・引用
- 電力広域的運営推進機関「容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2028年度)」
- 経済産業省 資源エネルギー庁「容量市場について」
- 電力広域的運営推進機関「長期脱炭素電源オークション約定結果」
- 資源エネルギー庁「ディマンド・リスポンス(DR)について」
- 電力広域的運営推進機関「容量拠出金説明会(小売電気事業者向け)」
- 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 関連資料
免責事項
本記事は、容量市場、容量拠出金、長期脱炭素電源オークション、デマンドレスポンスに関する公開資料をもとに作成した一般的な情報提供記事です。内容の正確性には配慮していますが、制度改正、運用見直し、公表資料の更新により、最新情報と差異が生じる可能性があります。
本記事は、特定の電力契約、投資判断、設備導入、経営判断を推奨するものではありません。実際の電気料金や容量市場関連費用への影響は、契約条件、需要パターン、電力会社の料金設計、制度変更などによって異なります。具体的な判断にあたっては、最新の公的資料、契約先電力会社、専門家等にご確認ください。